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第8話

・ここはラウエルン王国。南星神の加護を受け、温暖な気候から果物の栽培が盛ん。 ・人口の九割を獣人が占めているが、恒輝のようなヒト族も暮らしている。 ・この世界には男女という分け方以外に「α・β・Ω」の三つの性がある。 ・大多数がβで、αは全体の約二割ほどしかおらず、王家を始め貴族の後継者、また国家の重要な役職にはαが選ばれることが多い。 ・妊娠するのは女性のα・β・Ωと男性のΩ ・αとΩの間には番という結びつきがあり、発情期のΩの首筋にαが噛み付くことで成立する。  それはにわかには信じがたい話だった。 「信じられない。男でも妊娠? ヴァシュカは俺が番とか言ってたけど。ヴァシュカはαってこと?」 「はい。ヴァシュカ様はαです」  そしてハクやヨハンはβだと教えてくれた。 「ところでヨハンやヴァシュカっていくつなの?」 「私は十三歳です。弟のハクとは双子です」 「十三歳? 十三歳ってこの世界では子供ではないの?」 「十五歳で成人と認められます。しかし、私とハクは高等教育を飛び級しましたので、それよりも早くお務めをさせていただいているのです」  十五歳で成人するというのも自分がいた世界とは大きく違うので驚いたが、それ以上にこの小さな狐の子供がとてつもなく優秀であることにも驚いた。 「じゃあ、ヴァシュカっていくつなの?」 「私もはっきりとは知りません。元々、王族の方々は年齢などを明かされないものなので」  そのとき、恒輝の中である言葉が引っかかる。 「王族? 誰が?」 「ヴァシュカ様です」 「え? 王族って? え?」  驚いているとヨハンはにっこり笑いながら大きく頷いた。 「ヴァシュカ様は我が国の王太子殿下であらせられます。そして王国騎士団の団長でもあります」 「え……王太子!」  つまりヴァシュカの親が現国王であるということで。それってもの凄い人なのではないかと怖気づく。 「私もコウキ様がおられた世界についてお話が聞きたいのですが」 「構わないけど」  するとヨハンは次々に質問を繰り出した。  そこでまた新たに分かったこの世界と恒輝がいた世界との違いは時間の流れ方だった。  一日というおおよその時間は大差なさそうだが、こちらの世界の一年という時間は元の世界の時間のおよそ四倍。寿命は長生きする種で二五〇歳まで生きるものもいるらしい。(獣族の方がヒト族よりも長生きで、かつ寿命には生まれ持った魔力や第二の性も大きく関わってくるのだとか) 「俺は元の世界には戻れないの?」 「戻ることは出来ません。元より方法が無いのです」 「でもこっちに来れたんだから帰る方法だって」 「申し訳ありません。それは出来ないのです」  聞けば聞くほど衝撃の事実ばかりで困惑していると、ヨハンがおずおずと恒輝を見上げた。 「本当にコウキ様にはレオ様の記憶はないのですか?」 「見たことはあるんだ。でも、それはヴァシュカとレオの少年時代の話で。自分がレオだった意識はないよ」  するとヨハンは力なくその耳を垂らした。 「……やはり転生する際に記憶が失われてしまったのですね」  元気のないヨハンに、恒輝も胸が痛んだ。こればかりは仕方ないのだが、なんとかヨハンを元気づけたいと見回していると、棚の上に自分が着ていた服が畳んであるのが見えた。

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