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第10話

 暖かい光が全身をスキャンしているかのように動いていく。  そしてしばらくしてその緑色の光が小さくなるとハクがゆっくりと目を開けた。 「お身体には重大な問題はなさそうです」  ハクの言葉を聞き、ヴァシュカとヨハンも安堵した表情をした。 「……あの、聞きたいんだけど。俺の身体って本当にΩなの?」 「それは間違いありません。今はちゃんとした生殖器官へ変化をしている最中ですがコウキ様はΩです」  するとヴァシュカは眉根を寄せた。 「それは私が最初に言ったではないか」  不満げに漏らすが恒輝は依然として納得できないでいるとハクに変わってヨハンが口を開いた。 「これは私の憶測ですが、コウキ様がおられた世界で第二の性が存在しなかったので発達しなかったのではないでしょうか。使わないものは退化するものです」 「じゃあ、俺の身体は元々、Ωだったってこと?」 「はい。そうでなければ、ヴァシュカ様が見つけられなかったのです。αとΩには特別な結びつきがあります。それでも見つけ出すのは至難の業でした。時空や次元が違えば流れる時間の早さも、寿命も変わってきますし、ヴァシュカ様はこの二十年間、コウキ様を探し続けたのです」 「二十年……」  先ほど、ヨハンからこの世界の時間について聞いたばかりだったから、その長さに思わず目を見開くとヴァシュカは造作もないような顔をした。 「我々の寿命は他より長い。それよりコウキ、果物を持ってきたんだ」  ヴァシュカの視線の先には色とりどりの果物があった。 「ラウエルンは温暖な気候だ。果物は特産物でもある。好きなのを食べるといい」  ヴァシュカはバルコニーに面したテーブルに果物を運ばせると、椅子に座るよう促した。そして恒輝が座ると同時に気を利かせるかのようにヨハンとハクは部屋を出て行ってしまう。 「ちょっと待って」  昨日の今日でヴァシュカと二人にされるのは気まずくて嫌なのだが、あまりにもヨハン達が嬉しそうに去って行くので何も言えず、恒輝は仕方なくヴァシュカの隣に座る。するとまた甘い香りがしたのでやっぱり離れて座ろうと立ち上がったら手を引かれた。 「どうしたのだ」 「また甘い匂いする。近づいたら昨日みたいになるかも」  そうなるのは避けたいんだと言うとヴァシュカは大丈夫だと言った。 「ハクが言うには、昨日、熱を発散することができたから、もう昨日のような状態にまではならないそうだ」 「そ、そうなんだ」  大真面目に返されると余計に恥ずかしいので、大皿の果物に手を伸ばす。  皿に盛られた果物は見たことのないものばかりだったが、その中から赤い実を一つ取って口に放り込んだ。それはとても美味しかった。 「ちょっと酸味があるけど甘くて美味しい」 「気に入ったか?」 「うん」 「そうか、ではまた持って来させよう」 「あ、さっきヨハンに聞いたんだけど……ヴァシュカって王太子だったんだね。知らなくて……やっぱり様とかつけた方がいい?」 「いや、このままでいい。ヨハンやハクにも畏まらなくていいと言ってある。コウキは私の番となるのだから対等でいいのだ」 「いや、番になるとかは言ってないけど。このままでいいなら良かった」  恒輝はその後も目につくものを口に入れる。さすが果物が特産物だと言うだけあってどれもみずみずしくて美味しかった。 「こんなに果物食べたのって久しぶりかも」 「どれが好きだ?」 「この赤い実」  恒輝が指さしたのは一番最初に食べた果物だった。そしてもう一つ口に放り込んだ。 「そうか。それはレオと同じなんだな」 「そうだったんだ」 「レオは果物屋の息子でな。その赤い実が好きだった」  懐かしそうに言うヴァシュカを見て、恒輝は視線を落とした。 (結局は、レオの為のものだよな)  なんとも言えない感情を噛みしめているとヴァシュカが恒輝の顔を伺う。 「どうした? 急に浮かない顔をして」  指摘されると思っていなかったのでヴァシュカを見ると、思いのほか心配そうな顔をしていたのでちょっと戸惑って咄嗟に口をついた。 「べ、別に。き、昨日のがちょっと辛かったっていうか」 「昨日の? ああ、それはすまない」  咄嗟に出た言葉なのに素直に謝られると調子が狂ってしまう。恒輝が黙っているとヴァシュカが恒輝の肩を抱いた。するとまたふわっとあの甘い匂いがしてくる。  昨日のように急に体が熱くなることはなさそうだが、変にドキドキしてしまうのはフェロモンとかいうもののせいなのだろうか。

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