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第11話
考え込み黙ったままの恒輝を見て、ヴァシュカは不安げにした。
「そんなに辛かったのか? 初めてのことで手加減できなかった」
「初めてって何が?」
恒輝が首を傾げるとヴァシュカはばつが悪そうに俯く。
「……昨日のようなことがだ」
「え? どういうこと?」
「だから、昨日……コウキの体に触れただろう。そういうことが初めてだったのだ。初めて番に触れたことと、コウキがあまりにも可愛かったので、やりすぎた自覚もなくはない」
ヴァシュカの言ったことを理解するのに少しかかった。
「え? えぇ!」
「大きな声を出すな」
驚くなと言う方が無理だろうと恒輝は思う。
「初めてってまじ? ヴァシュカって王太子なんだよな? 引く手数多なんじゃねぇの? だからセックスくらい普通なのかと」
「セックスとはなんだ?」
「えっと、挿入? 交尾? 子作り?」
そう言うと話を理解したのかヴァシュカが目を見開いた。
「なっ、何を言ってるんだ! は、はしたないっ! こ、こういうことは、せ、正式につ、番う時にするものだろ!」
少しどもりながら言う姿は少し恥ずかしそうにも見えて、恒輝はきょとんとしてしまった。
「じゃあ、ひたすら俺だけイかせ続けたのって……我慢してたとか?」
「あ、当たり前だ! そういうのはヒートが来たときに行うのだ!」
「でもさ、ヒートのときって本能むき出しになるんだよね? 絶対に練習しておいた方がいいと思うけど」
「練習って何のだ」
「服の脱がせ方とか。情緒も何もないのは嫌われるよ?」
「そんなのは必要ない」
「でも、本当の本番でとちったりしたら恥ずかしくない?」
「そんな失敗はしない」
「…………」
だんだんヴァシュカが乙女なおっさんにしか見えなくなってきた恒輝が呆れているとヴァシュカは詰め寄った。
「まさかとは思うがコウキは誰かとそういう行為をしたことがあるのか」
はしたないだの何だの言っているヴァシュカのことだから何を言われるかはわかっていたけれど嘘をつくのも……と思い濁し気味に答える。
「……まぁ、人並みに?」
すると案の定、ヴァシュカは怒声を上げた。
「なっ! コウキ、お前は私以外に股を開いたのか!」
「股を開く前提で話すな! つか、ケツなんか使ったことなかったわ!」
すると少しだけ安堵したような表情を見せたヴァシュカだったが、また厳しいまなざしを恒輝に向け、恒輝の座る椅子の肘に手を突くとそのまま顔を近付けた。
「いいか、コウキ。今後は一切、他のものを誘惑することは許さないからな!」
「つか、今までだって誘惑してたわけじゃねぇ」
だんだん話が変な方向へと逸れていくと、 ーーコンコン、と控えめなノックの音で会話は中断した。
聞こえてきたのはヨハンの声だった。
「お話中、失礼します。ヴァシュカ様、ランカー卿がお見えです」
「通せ」
すると一瞬にしてヴァシュカの目つきが変わった気がした。
「失礼します。王太子殿下、パレストラ国の現状についてご報告が……」
部屋に入ってきたのは大柄なヴァシュカよりも更に大きい熊の獣人。ランカー卿と呼ばれていた人は、恒輝をみるなり話をやめた。
「この方は?」
「私の番になるコウキだ」
するとランカーの背後からひょこっと熊の耳をしている人間の女性が現れた。
「王太子殿下、番をもたれるのですか?」
「おぉ、リサも来ていたのか」
ヴァシュカはこちらとも面識があるようで、二人の前に恒輝を連れて行く。
すると一瞬、眉根を寄せたような気がしたランカーは恒輝の前に跪いた。
「私は、エグモント=ランカー。ラウエルン王国騎士団の大隊長をしております。こちらは娘のリサ。以後、お見知りおきを」
「は、はい」
そんな挨拶に気後れしていると、ヴァシュカはランカーと仕事の話があると言った。
「リサ、すまないがコウキの話し相手になってやってくれ」
「俺は別にいいよ」
「リサもΩなのだ。そして半分はヒト族の血が流れている」
そして半ば強引にリサに恒輝の相手を任せるとヴァシュカはランカーと共に部屋を出て行った。
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