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第12話

   ◇  ーーそれから数週間。ヴァシュカは毎日、恒輝に果物や服や装飾品などを贈ってきた。それも、度を超えた量をだ。  こんなにいらないと何度言っても聞き入れず、挙げ句の果てには拗ねる王太子に恒輝も手を焼いていたりする。 「それだけ愛されているのですよ」  あれからよく遊びに来るようになったリサは言うが、恒輝は困っていた。  元々、少年のヴァシュカに淡い恋心に似た感情を持っていたからというのもあるが、恒輝は確実にヴァシュカに惹かれつつあったからだ。  それでこれだけ贈り物をされて、毎日通われていると勘違いしてしまいそうになる。  これはまずい状況だ。  そんなことを考えながらヨハンと一緒にリサにカードゲームを教えていた。  リサは熊族とヒト族の混血のΩで、両親は共にβだ。  この国の重要な役職にはαが就くことが多い中、βであるランカーが騎士団の大隊長を務めるのは異例でそれだけ彼が優秀であることがうかがえる。  ヴァシュカはランカーを信頼しているので、いつも行動を共にしているようだった。  そして、最近は隣国との情勢がまた悪化しているとかで忙しそうにしている。  前はふらりとやってきては恒輝の部屋で暫しの時間を過ごしていたヴァシュカも、夜中になって来て恒輝のベッドで眠るだけの時も多くなっていた。  寝るだけなら自室に戻ればいいと思うのだが、そんなことを口にすればヴァシュカは「コウキの顔を見ると安らぐのだ」なんて言ったりして恒輝を困惑させる。 「なにか考え事ですか?」  リサに話しかけられ恒輝ははっとした。  するとヨハンが心配そうに恒輝の顔を覗き込む。 「最近、ヴァシュカ様がお忙しくされているからですかね?」  まるで自分が寂しがっているかのように言われて、慌ててかぶりを振った。 「違うから! 誤解を招くような言い方するなよ」 「しかし、隣国のパレストラ国との関係は悪化しているそうです。約二十年前に東の村が襲われたのを皮切りに大きな戦がありその後は冷戦状態でしたが……また戦争が起こるのでしょうか」  リサは不安そうに俯いた。 「ランカーさんは騎士団の大隊長だから心配?」 「そうですね。だからこそ父を早く安心させて差し上げたいと思うのです。私も殿下の番に名を連ねられたらきっと父も安心すると思うのですが」  そのとき、リサの言葉が耳に引っかかった。 「番に名を連ねるって?」 「聞いておられませんか? 王族や貴族の方はより確実に子孫を残すために複数のものと番うものです。正妃にはαしか迎えないという家もありますよ」 「そうなの?」 「大体の方が複数のΩと番われます」  ヨハンを見るとそういう方もいるというような顔つきで、何も特別ではない考え方なのだろうが思いのほかショックを受けている自分に一番驚いた。  するとドアが開きヴァシュカが入ってきた。 「コウキ! 時間がとれたので前に言ってた川に行こう。リサも来ていたのか。ご苦労だな」 「いえ、コウキ様とお話しするのは楽しいです。では私はこの辺で、寂しく思われていたところでしたから殿下がお帰りになられて良かったですね」 「なんだ? コウキは私に会えなくて寂しかったのか」 「勝手なこと言うな!」  すると気を利かせてヨハンも帰ると言い、さっきまで賑やかだった恒輝の部屋は静かになった。 「川に連れて行ってくれるの?」 「そうだ。釣りの準準備もさせてあるから行こう」  以前、宮殿の敷地はどこまでなのかと窓から眺めていてヴァシュカに聞いたときに、川があることを知った。それで、釣りがしたいと言ったことを覚えていてくれたことに恒輝は心が弾む。  さっきまで暗い気落ちだったのに、現金なものだと呆れながら支度をした。

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