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第14話

「レオじゃなくてごめん……。レオの記憶を忘れてごめん」 「だから、それは忘れて良かったと言っただろう」  それでも自分がここでのうのうと暮らしていることが恥ずかしくなった。 「俺なんかじゃなくてレオがここにいるべきだ」 「でも、ここにいるのはコウキだ。私の目の前にいて、私の腕の中にいるのもコウキだ」  顔を上げると頬に伝う涙をヴァシュカが舐め取る。 「レオとコウキは魂は同じだが、違う。レオと好きなものは似ているようだけど、話し方も違うしなんせ奔放ではしたない」 「なんだよその言い方!」 「こうやって言い返してくるのも新鮮だ」 「悪かったな」 「悪くなどない。惹かれていたのだ。そしてさっき泣いているコウキを見て優しい人だと思った。どれだけ変わっても本質は変わらない。そう思ったのだ」 「それってどういう意味?」  するとヴァシュカは恒輝を抱きしめる腕に力を込める。 「コウキが好きだと言うことだ。初めてその黒い瞳を見た瞬間、心を奪われた」 「え……?」 「お前はラウエルンの南星のようだ」 「なにそれ」 「私がもう一度、番に会わせて欲しいと願った星だ。いつも南の空の同じところに輝いていて、我らを導いてくれると言われている。コウキは明るくて、周りに仲間が集まってくるだろう? その星そのものだ」  恒輝は北極星のようだと思った。同じような星がこの世界にもあったのか。 「ラウエルン王国はその南星の加護を受けている。そして王家にはその星の砂が代々伝わっているのだ。己の魔力や寿命を削ってでも叶えたい願いを叶えるときに王家のものだけが使えるものだ」 「まさか自分の寿命を縮めたの?」  ヴァシュカはさらに抱きしめた。 「私が生きて会える保証もなかった。自分の残りの寿命ももちろんわからないから命を削ることも怖くなかったと言えば嘘になる。それに番が生まれ変わるという確証も、どこに生まれ落ちるかも何もわからなかったが、そのとき南星が瞬いて私は決心したのだ」  そんな真剣な思いが奇跡を起こしたのだと思った。  また堪えきれずにぽろりと涙がこぼれ落ちたのを俯いて手の甲で拭う。 「本当に俺でいいの?」  小さく呟くと抱きしめていた腕を緩め、恒輝の額にそっとキスをした。 「当たり前だ。変わったところも変わらないところも全てを私のものにしたい」 「奔放ではしたないけどね」  そう言って笑うと、目尻に溜まっていた涙がまた零れたが迷いはなくなっていた。  しばらく、静かに抱き合った後でヴァシュカがぽつりと呟いた。 「私はしばらく執務で忙しくするのだ。一人にしておくのは心配だが、来月には宮殿で宴も開かねばならぬ」 「宴?」 「定期的に貴族を集めて催すことになっている」  ヴァシュカは面倒くさそうに息を吐くと、恒輝のことを抱き寄せた。 「私がいないときは部屋から出ないでくれ。部屋なら何があってもヨハンやハクがお前を守ってくれる」 「大袈裟だって」 「私がいないときにヒートになったらどうするのだ。言ったであろう。これからは私以外を誘惑するのは許さないと」 「そんなにヒートって前触れなくくるものなの?」 「私も実際のことはわからぬ。帰ったらハクに聞いてみよう」 「いや、子供に話すことでは……」  お務めをしている魔法師とは言え、まだ成人していない子供にきくのは良くないと止めたが、自室に戻るなりヴァシュカはすぐハクを呼び色々と聞いていた。  ヒートの前には微熱が続くなど前ぶれがあるらしく、そこは自分が管理し報告します! と目を輝かせながら胸をはるハクを見て居たたまれない気持ちになったのは言うまでもないのだが。  急に過保護になったと感じながらも、恒輝は今までに感じたことのない幸福を噛みしめていた。

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