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第17話

 酸素が足らず、大きく肩で息をするも追いつかない過呼吸のようになってその場をのたうち回った。  そして、ぐちゅ……っと自分の股が濡れた。  するとランカーがにやりと笑った。 「すごい匂いだな。βの私でも当てられそうだ。これじゃαどもは我慢できまい」 (これが、ヒートなのか)  思考が混沌としどんどん本能に傾いていく。ーー欲しい、欲しい、欲しい。  とろりと肌を伝うものに眉を寄せ、火照りはどんどんひどくなっていく。  膝を擦り合わせ、今にも意識を飛ばし快楽に耽溺してしまいたくなった。  その暴力的ともいえる愛慾が怖くて震え出す自分の身体を抱きしめる。  その時、階段の上の方で物音がした。 「……Ωがいるのか」  恒輝はびくっと身体を震わせた。フェロモンを嗅ぎつけて宴会場にいたαが地下室に下り始めているようだ。  逃げなければいけないと思うのに身体に力が入らない。 「嗅ぎつけたようだな」  なんとか身体を起こすも、太ももまで濡れている感触は気持ちが悪い。  αたちは何かに取り憑かれたかのようにそこにいる全員が目を血走らせて近づいてきた。 「Ωの匂いだ……番に、番に」  譫言のように繰り返しながら恒輝を押し倒し覆い被さってくる。 「いや、いやだ!」  慌てて押し返そうとするがただでさえ力の入らない腕ではどうすることもできず、服を剥ぎ取られそうになり悲鳴を上げる恒輝を見てランカーは笑った。 「本当は欲しくて堪らないのだろう。Ωというのは本当に淫乱だ」 「いやだぁ、やめろ」  その言葉は心に刺さり、泣きたくなった。すると他のαが恒輝を殴る。 「静かにしろ、誘っているのはお前の方だろ」  こんな男に触られたくもないと思うのに、本能で求めている自分に絶望した。それでも逃げなくてはと這いつくばるも、どこからともなくαの手が伸びてきて押さえつけられる。  身体は焼け付くように熱い。  ついにはズボンを剥ぎ取られた。やはり自分の太ももはどろどろに濡れていて膝を閉じるもすぐに抱えられる。 「離せ! 嫌だ」  泣き叫ぶも、聞き入れてくれるものはおらず、何度も腕や足を捕まれて身動きがとれない。 「やだ!」  理性を失ったαの腕が伸びてくる。それでも逃げようともがく身体を押さえつけられて脚を開かれる。 「嫌だ! 離して」 「なんだよ。ぐしょぐしょに濡らしているじゃないか。本当は欲しくて堪らないのだな」  どうしてこんないわれをしなければならないのか。その男の指がぐちゅと音を立てて入り込みそのま まかき混ぜられるたびに身体が震えた。 「やだ、離せ……ひ、あ」  嫌で堪らないのにどうして声がこぼれてしまうのだろう。  心と身体がバラバラになったようで、怖くて情けなくて涙が零れた。  そして身体はさらに快楽を求め、もっと太いもので奥を埋めて欲しいとさえおもう自分の思考に怖くなってかぶりを振る。  そして、ここにはいないヴァシュカのことを思った。  あの人の心は少年のままで止まってしまっている。王太子なのだから引く手数多だったはずなのに、それでも番になるまで手を出さないとか、純粋な人なのだ。  番になるならヴァシュカが良かった。そう思ったところでもう遅いのだけど。    ーーお前がここでαどもに犯されている間に我が娘が王太子殿下の番となる。    知性や理性を兼ね備えているくせに、こんな本能に抗えないなんて不幸だ。  悲しくて辛い。それは今から誰とも知らないαに犯され、誰かの番にされてしまう自分のことではなく、ヴァシュカのことだ。  心優しい彼は、きっと今日のことを悔やみ悲しむと思うと胸が痛くて堪らなかった。  そう思うと、自然と声に出ていた。愛しいと思う彼の名前が。 「ヴァシュカ……ヴァシュカ…………ヴァシュカァァァ!」  そのとき、一人のαが恒輝に襲いかかってきた。瞳孔の開ききったその目は恐怖でしかなく、その獰猛な牙が見えた。  もう終わりだと目をぎゅっと瞑った瞬間。  何かが倒れるような音とともに陶器の割れるような音がしたので目を開けた。

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