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第18話

 一瞬の出来事だった。 「がっあ……」  物音のあとに、うめき声が聞こえたが恒輝は目が離せなくなった。 「私の番に触れるでない!」  身の丈ほどあった置物が倒されていて、襲いかかってきたαがその下敷きになっていた。そして同じくランカーも気を失っている。 「ヴァ……シュカ」 「遅くなってすまない。怖い思いをさせたな」  そう言って恒輝の腕を引き、身体を抱き起こしてくれた。ヴァシュカからは甘い花を煮詰めたような香りが漂っていて、無性に涙がこぼれ落ちた。 「もう、大丈夫だ」  肩に触れられると安堵して、手を伸ばして抱きつこうとした恒輝をヴァシュカはぎゅっと抱き寄せる。その瞬間、電流が走るように体中が痺れる気がした。 「ヴァシュカ……ヴァシュカ」  譫言のように呼びかけていると、ヴァシュカは何かに耐えるように息を呑むと腕に力を込める。 「ヴァシュカ様! コウキ様! 遅くなってしまい申し訳ありません」  遅れてヨハンがやってきた。 「ヨハン、道をあけてくれ。コウキも発情剤を使われているようだ」 「かしこまりました!」  そしてオレンジ色の光の球で恒輝たちを包み襲いかかるαから守るようにして道をあけた。 「とにかく場所を移そう。これで、私まで理性を失ってしまったら大変なことになる」  そして抱き上げられたヴァシュカの腕はなぜか噛み傷で血だらけになっていた。 「ヴァシュカ、けが……してる」 「気にするな。問題ない」 「でも……」 「私は、お前以外とは番わない。私が心に決めたたった一人の番はコウキだけだ」  その言葉はさらに恒輝の身体を熱くさせた。先ほどの恐怖から一転、心地よいヴァシュカの声に酔いしれて腹の奥がキュンとする。  ヴァシュカから漂う香りは心地よく、そして身体を熱くさせていく。  ぎゅっと抱きついて胸元の毛並みに触れ、漂うフェロモンに身体を震わせ、息を弾ませ、抱きつく腕に力を込めた。 「ヴァシュカ……はやく、はやく……」  荒い息のままヴァシュカの肩口に顔を埋める。腹の奥はきゅんきゅんとして、そこにヴァシュカのものを埋めて欲しい。いっぱいにして欲しいとばかり思ってしまう。  恒輝を抱きしめ、宮殿内を走るヴァシュカもまた息が上がりつつあった。 「これから私はコウキの部屋にこもる。人払いは任せたぞ」 「お任せください」  抱きかかえて走るその僅かな揺れにさえ身体がどんどんと熱を上げていく。理性は今にも切れてしまいそうで、もうどこでもいいから抱いて欲しいと叫んでしまいそうになる。  ぐずりと下腹部が疼き、愛液が肌を伝った。  やっとの思いで自室に戻り、半ばベットに投げだされるように下ろされると、ヴァシュカは覆い被さってきて恒輝を見下ろした。その余裕のない表情に、ヴァシュカも自分と同じだったのだとわかり、すがるように手を伸ばす。 「ヴァシュカ……」 「私は、お前を番にしてもよいか」  そんなことを聞いてくるヴァシュカをより一層、愛おしく思った。 「俺こそ、レオじゃないけどいいの?」  ヴァシュカは恒輝を抱きしめ、短く息を吐いた。 「言ったであろう。コウキの目がとても好きなのだと」  それは宮殿の敷地内にある川で魚釣りをしていたときに言っていた言葉だ。そしてそのままヴァシュカは続ける。 「レオを忘れることはきっとないだろう。しかし、一緒に生きていきたいと思うのはコウキなのだ」 「俺ははしたないぞ?」 「そうだな。でも、そのお前の自由さに惹かれているのだ。私はコウキでないといけないのだ」  自分でなければいけないと言われたことで、恒輝の中でいろんな感情が爆発するように大きくなった。ぽろぽろと勝手に涙があふれ出て、ヴァシュカの腕を抱き寄せる。 「俺、ーーヴァシュカのものになりたい」  身体の芯からどろどろになる。この人のものになりたいと思った瞬間、耐えきれず脚を広げていた。 「ヴァシュカ……もう、もう……」  するとヴァシュカも限界とばかりに覆い被さり、恒輝の顔や首筋に舌を這わせていく。 「ひ、あぁ……っんあ」  あられもない声をあげながら身体を揺らすとヴァシュカは乱暴に恒輝の服を剥ぎ取るように脱がしていく。ヒート状態に情緒なんてものはない。だから、本番で失敗しないように練習が必要だとあれほど言ったのに。なんて恒輝は頭の片隅で思いながらも、獣のごとく求められていることに喜びを感じ、さらに身体の奥を濡らした。

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