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第69話
「いただきます!」
赤くて丸いさくらんぼ。
甘くてほんのり酸っぱくて、初夏の味がする。
「なぁ、これ出来るか?」
べ、と出された長岡の舌の上には緩く結ばれたさくらんぼの軸。
器用だとは思っていたが、舌まで器用なのか。
行為の最中も自由に動く舌を思い出し妙に納得してしまう。
「した事ないですけど…」
もごもごと口を動かしはじめた三条だが長岡からの視線にさっと口元を隠す。
初めてのせいか口を懸命に動かす姿は間抜けそうだ。
なんだか恥ずかしい。
「はるちゃん頑張れ」
色っぽく流し目を寄越した長岡はそのままの動きで桜桃を口にした。
桜桃が羨ましい。
同じく、べ、と出した三条の舌の上にはなんとか結ばれた軸があった。
「上手ぇな。
それ出来るとキス上手いんだろ」
「…何が言いたいんですか」
「いや、別に?」
笑いを含んだ声が、少し悔しい。
だけど、なんだかんだ長岡は今の辿々しいキスが好きらしく、上手くなんなとよく言う。
きっと、後者が本音だ。
「伸びしろです」
「伸びしろか。
あんま上手くなんなよ。
優等生」
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