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第76話

「ご馳走さま」 すっかり癖の移ってしまった長岡は誰に言うでもなく言葉を溢した。 元々一人暮らしをするこの部屋で言葉を発する事もなかった長岡だが、いただきます、ご馳走さま、ただいまはつい口に出てしまう。 マグの中身を飲み干し、洗い物を持って立ち上がる。 連日の夏日に体力を奪われているようだ。 それでも、朝晩はまだ涼しいのが幸いだ。 一方、生徒達は日中は体育で身体を動かし、放課後は体育祭練習と準備。 よく疲れないなと思ってしまう。 高校を卒業して10年は長い。 10歳の歳の差は大きい。 セックスならいくらでも身体は動くのだが、あの生徒もいない。 今年の体育祭では大人げなく走る事もないだろう。 決して今の学校に不満がある訳ではないが、きっとA組以上のクラスには出逢えない気がする。 流し台のレバーを上げるとスポンジに食器用洗剤をつけ洗っていく。 その水の気持ち良さにもうすぐそこまできている夏を感じた。

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