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第77話

真っ暗な部屋で三条は目を覚ました。 どこかから泣き声がする。 綾登の声だ。 やわらかな畳の敷き詰められた和室が、今の綾登の部屋。 そこで一緒に過ごす母親は朝も昼も晩もなく、ミルクを飲ませおしめを変えあやしている。 ベッドから抜け出した三条はそうっと階下へ降りると、小さく聞こえてくる会話に聞き耳をたてた。 「美月ちゃんは寝てな。 俺がいるから。」 「でも…」 「俺は大丈夫。 日中綾登と居れないからね。 なぁ、綾登。」 今日は2限からだから何か手伝えればと思ったがその必要はなさそうだ。 父親は日中一緒に居れないなんて言うが、いまだデレデレで母親の事も気にしている。 もしかしたら、結婚した今でも父親にとって母親は恋人のままなのかもしれない。 ただただ、大切な人。 なんとなくその気持ちは解る。 今降りてきた階段を上がると、そのまま布団に潜り込んだ。 階下からはまた綾登の声がするが元気な証拠。

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