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第243話

他愛もない話をしつつ、同じ時間を堪能する。 会えなくてもこうして顔が見れる様になった時代に感謝だ。 「日曜も天気次第では家にいろ。 遥登飛ばされそうでこえぇんだよ」 『それは流石にないですよ…』 三条は眉を下げて笑うが、転んだりして打ち所が悪ければ最悪の事だって考えられる。 肋の浮いた胸にうっすい腹、棒の様な手足。 それを隠す服もだぶたぶと風にはためくはだろう。 想像するだけで心配だ。 『正宗さんも気を付けてくださいね。 買い物は済んでますか?』 「あぁ、実家行って持たされたレトルトとか缶詰めがあるよ。 蟹の缶詰めもあんだぞ。 なんもなけりゃ、今度食おうな」 『はいっ。 楽しみです』 何事もなく通過してくれればそうして楽しみに変えれば良い。 自分1人なら気にしなかった事を気にするのは、何時ものにこにこした顔をしはじめた恋人が大切で大事だから。 ゲーテの遺した言葉に、 あの人が私を愛してから、自分が自分にとってどれほど価値あるものになったことだろう とあるが、本当だ。 9歳年下の恋人から教えられた世界はとてもあたたかい。 そして、美しい。 「遥登、イヤホンしたまま電話する時みたいにスマホ耳に当ててくれねぇか」 『? こうですか?』 チュ 『っ!』 「ははっ、顔真っ赤」 『だって……』 通話口に小さなリップ音を落とすと口元を隠して照れだした。 可愛いったりゃありゃしねぇ。 早くその隠れた口にしてぇなと笑うと、三条は小さく頷いた。

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