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第253話
アチチ…と湯気のたつ丼から麺を啜る。
長岡にしては甘い味付けなのはきつねうどんだから。
冷凍のうどんは便利で長岡の部屋の冷凍室に常備されている。
焼きうどんや鍋の〆、冷たいものにあたたかいものと色々な食べ方も出来て米を炊くより手軽。
それと、三条が好きだと言ったからだ。
「美味しいです」
「そりゃ良かった。
沢山食え」
大人げない恋人は顔を上げ微笑んでくれた。
この部屋で長岡と食べるうどんは感慨深い。
あの日を思い出す。
あの日、強姦紛いの事をされた日にもはじめてこの部屋に泊まった日にも食べさせて貰った物。
ほうれん草とかきたまのうどんも優しい味がして好きだ。
嫌な思い出はない。
きちんと長岡を知れたからこわいという感情すらない。
「ん?
どうした」
「夕食は俺が作りますね」
「一緒に作ろうな」
ほら、優しい。
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