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第254話

「冷えるな」 日が沈んでぐっと気温が下がった。 三条を送り届ける為に一足先に玄関を抜けた長岡は誰に言うでもなくそう溢した。 空を見上げる横顔。 そのEラインと、顎から喉の美しさを惜し気もなく晒す。 続いて出てきた三条に視線を下ろすと肩を竦めていた。 いくら体温が高くても、骨に皮が貼り付いた様な体型じゃ芯に響く。 肩に羽織っていたパーカーをかけると、くりくりした目が此方を向いた。 「着とけ」 「駄目です。 正宗さんが寒いです」 「格好付けさせてくれよ」 「…何時も格好良いです」 外だというのに大胆な三条。 今すぐ玄関に押し込んでこの子を貪りたい。 キスをしてでろでろにさせたい。 その欲をぐ…っと抑え肩を押す。 「な」 「じゃあ、車までお借りします」 「車までかよ。 遥登のにおい付けとけよ」 暗闇は平等を与えてくれる。 誰もが目線を気にせず寄り添える。 ぼんやりと辺りを照らす月だけが知っていれば良いしあわせのかたち。 誰かに言える関係だからしあわせなんじゃない。 誰かは関係ない。 大切なのは自分の心がしあわせかどうかだ。

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