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第257話

ミスターコンの誘いをひらりと交わしながらも先を歩く長岡は歩みを止めない。 暫く歩くと人は疎らになり、そして見当たらなくなった。 だが、人気のない道を歩くも少し緊張する。 長岡は農業棟の奥へと馴れた様子で先を歩く。 この辺りに来た事がある、と言っても数回だけだ。 冬の花が沢山咲く庭園と竹林、緑豊かな一角。 銀杏が色を付ける校舎裏から金木犀の甘いにおいがする。 銀杏の実のにおいと混ざってなんともいえない秋のにおい。 だが、此処は心地が良い風が通る。 付かず離れずの距離に長身の人陰もあった。 離れているが散歩の様で少し嬉しい。 長岡と昼間に外を歩くのは温泉旅行に連れて行ってもらったぶりだ。 高校より繁華街に近い位置にある大学だが、近くに海があったり自然が多い。 野良猫も敷地内を散歩していて、肩肘張らなくて良い。 その人がすっと歩道を逸れた。 そっちは林だ。 と思ったが、目の前には小さな四角い建物。 中に入る背中に続くと抱き締められた。 「はよ」 「おはようございます。 正宗さん、来てたんですね」 「ん、来てた」 漸く見られた綺麗な笑顔にきゅぅっと胸がときめく。 「言ってくれれば良かったのに。 今から正宗さんの所に行こうと思ってたんですよ。 入れ違いにならなくて良かったです」 「驚いた顔見たかったからな。 でも、会えたろ」 「はい。 あの、こんな所にトイレあったんですね。 しかも多目的用もある」 「そこの庭木の整備する時に使える様にって俺が在学中に出来たんだよ。 外部から年配の方も来られるし、一応多目的もな」 「よく知ってますね」 「此処、喫煙者の溜まり場だったんだよ。 今は基本学校内禁煙だろ。 もしかしてって来たら誰も居ねぇのな」 もし誰かが居たらどうするつもりだったのだろうか。 でも、居なくて良かった。 こうして長岡と会えた。

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