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第269話
今度こそ身支度を整える。
ベルトもきっちりと締め、服のシワを伸ばす。
三条の服のシミも大分目立たなくなってきた。
もう少しだけ逢瀬を楽しむ。
平然を装う2人だが、行為の後の色気だけは隠しきれない。
「帰りますか…?」
「顔見に来ただけだしな。
そろそろ帰るか」
「……俺も、もう帰ります」
毒し過ぎてしまった優等生は、甘える様に手に触れた。
誰がこんな可愛い誘い方を教えたんだ…
「良いのか、優等生」
「優等生じゃないですし、良いんです」
三条は案外頑固だ。
帰ると決めたなら帰る。
それをとめられる程、長岡もお利口ではなかった。
「じゃ、先に帰っててくれるか?
夕飯の買い物済ましてすぐに帰るから、その間に…わかんだろ?」
その間の事を、そしてその後の事を理解し顔を真っ赤する三条。
視線をそらされ、汚れていない手の甲で上気した頬を撫でた。
「んな顔してたら悪い大人が食っちまうぞ」
「正宗さんなら、それが良いです」
「今すぐ抱いてやろうか」
この恋人といると毎日が楽しい。
くるくる変わる表情も、豊かな感受性も、本当に飽きない。
「我慢、です」
「はいはい。
じゃ、帰ろうか」
誰も居ないのを良い事にもう1度やわらかな唇を味わうと、施錠を解除した。
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