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第273話
スーパーに入ると湿った服がひんやりとした。
兄はそれに気が付き、籠を持ちながら大丈夫かと声をかける。
「大丈夫。
ジャージが濡れてるだけで中は平気だし」
「さっと済ませて帰ろうな」
出入り口正面の特売品コーナーできのこをポイポイと籠に入れると、野菜コーナーで葉物野菜をじっくり見はじめた。
兄の買い物はいつもこんな感じだ。
選ぶ必要が無いものは男らしい買い方をする。
いつもにこにこしてて丁寧なのかと思えばそうでもない。
口調だってご近所さん達には丁寧だけど、家族や友達には砕けて話すし今時の言葉も使う。
だけど、否定的な言葉はあまり聞かない。
見習わなきゃなと思いながらもたまに使ってしまう。
「兄ちゃん、春雨サラダが良い」
「わかった。
あと食いたいのは?」
「ザーサイ」
「キクラゲと炒めたやつな。
油っこいのばっかだな」
流石中学生と笑う兄だが、兄は成長期の俺より食べる。
油っこい物もだ。
父さんも若い頃は食えたんだけどなって言ってるけどあながち嘘じゃないと思う。
線が細いのは両親共にだが、沢山食べるのは父似だ。
じゃあ、兄ちゃんも父さん位の歳になったら今程食えなくなるのか…?
沢山食べる兄しか知らないせいか不思議な気持ちになる。
「ん?
どうした。
小松菜の味噌汁嫌か?」
「んーん。
好き」
「じゃ、小松菜にしよ」
にこにこ笑う兄がじいちゃんみたいに白髪頭になるのは想像もつかない。
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