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第317話

あたたかな物に抱き付くと、頭を撫でられた。 冷たくて気持ちの良い手。 長岡の手だ。 「…まさむねさん」 「起きたか?」 見上げた先、頭を撫でていた手の向こう側に綺麗な笑顔があった。 寝起きでこの顔が見られるなんて贅沢だ。 三条はきゅっと上がった口端を更に上げふわふわと笑う。 「おはようございます」 「本当、寝起き良いな。 もっととろとろしてればいいだろ」 「まだ眠いですよ。 でも、起きます」 毛布から出ると部屋はあたたかく、長岡の手の気持ち良さが際立つ。 長岡は観ていたスマホをサイドチェストに置くと、代わりに手にしたマグを渡してくれた。 中にはあたたかなコーヒーがまだ沢山はいっている。 「飲むか?」 「ありがとうございます。 いただきます」 甘くないが飲めるようになったそれをごくごくと嚥下するとすっきりした。 苦味がスーッと身体に染みていく。 何時からこの味を好きになったんだろう。 「少し前までは飲めなかったのにな」 「正宗さんがくれるからですよ」 「懐けよ」 「もっとですか?」 「あぁ、もっとだ」 学校で見ていた長岡はずっと大人で憧れの人だったが、部屋で見る長岡は時々子供みたいでよく笑う愛情に溢れた人だ。 派手に着飾る事もなく本が好きで、猫に優しくて、そんな長岡が愛おしい。 「もう離れられませんよ」 「それが良いんだ」 あ、それとこの笑顔が大好きだ。

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