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第334話

「綾登ー、可愛いなぁ」 寝起きでもご機嫌な弟を抱き締め鋭気を養う。 勉強にバイトにと充実した毎日も正直少し疲れてきた。 短期のバイトだけあって忙しい事がその要因だが、なにせ給与が良い。 あと少しで終わりのバイトなのだから最後まで気を抜かずに頑張るつもりだ。 そんな三条は、見返りを求めず誰にでも無垢な笑顔を向ける綾登に癒されている。 長男は朝食の後片づけを終え、電車が来るまでの数十分をこうして末弟と過ごすのを楽しみにしていた。 「うっうっ」 「うん、楽しいな」 「う、あー」 三条がにこにこと笑うと、弟も嬉しそうにする。 単純な事だがそれが嬉しい。 バイトで疲れた身体にそれが染みる。 そんな兄弟を眺めながら母親もそっくりな顔で微笑んでいた。 「綾登、本当に遥登大好きだね」 「父さんの血が濃いんだろ。 父さん、母さんの事今でも溺愛してるし」 「羨ましい?」 「親の仲が良いのは微笑ましいよ。 な、綾登」 思春期真っ盛りの次男は複雑そうな顔をするが、夫婦仲が良いに越したことはない。 優しい弟は少しの空気の変化を敏感に感じとる。 だが、家で生意気な中学生でいられるのはその変化がないからだ。 優登も難しい年頃なだけできちんと理解している。 「あーっ」 ぺちっと小さな手が顎をたたく。 構って欲しそうな可愛い目で見詰められたらたまらない。 可愛くてぎゅーっと抱き締めるときゃっきゃっと嬉しそうな声がリビングに広がった。

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