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第364話
へアセットを済ませた恋人はすっかり見なくなった教師の姿だった。
タイピンでネクタイを挟みフロントボタンを閉めていく。
特別な姿ではないが、それが良い。
格好良いなとその姿を眺めていると、綺麗な顔が此方を向いた。
「えっち」
悪戯っぽく微笑む恋人に胸がきゅぅっとする。
ふわふわするのにドキドキする。
「…何も、見てませんよ」
「本当か?」
「……多分」
「ははっ。
な、腕時計嵌めてくれるか?」
ぱっと顔が明るくなり尻尾が揺れた。
嬉しいと解るその顔が部屋を明るくする。
いそいそと長岡の元へ行くと、血管の浮いた腕に腕時計を巻き付けた。
自分のものより男らしくてすらっとしていて羨ましい。
腕を返しつく棒を小穴に通していく。
余ったベルトを定革、遊革で抑えて顔を上げた。
「出来ました」
「ありがとな。
これで今日は頑張れる」
「良かったです。
あの…正宗さん」
「ん?
遥登も着けてやろうか?」
「あ、お願いします。
じゃなくて、ですね」
三条は長岡の腕を掴んだまま首を伸ばし口端に小さなリップ音を落とした。
「あんまり頑張り過ぎないでください」
眉を八の字にして笑いだした恋人は髪を掻き乱しながら喜んでくれた。
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