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第381話
「大吉です!」
「引き良いな」
学問も頑張れば良いと書かれている。
もうすぐ試験だし書かれている事に胡座をかかず油断せず頑張ろう。
他の言葉も悪くない。
「正宗さんはどうでした?」
「吉。
病気、気を付けろってなんに気を付けんだ」
「風邪、とかですかね?
階段踏み外したりとか?
それは怪我か。
でも、気を付けるに越したことはないですから気を付けてください」
「ん、風邪だと遥登に会えねぇしな」
活字中毒の長岡は短歌や裏面まで読んでいる。
その真っ直ぐな目に三条は手元に視線を下ろしまた長岡に戻してから口を開いた。
「正宗さん、交換してください」
「御神籤をか?」
「はい。
そっちが良いです」
「そういうもんじゃねぇだろ。
それに、確率の問題だ。
気にしちゃいねぇよ」
「でも、それが欲しいです」
去年、お守り代わりに制服のポケットに忍ばせてくれた大吉の御神籤が受験の時にどれだけ嬉しかったか長岡は知らない。
さらっとそういう事をする人だが、三条だって長岡のしあわせを願い祈る。
恋人ってそういう関係だろ。
無条件に大切で、笑っていて欲しいと思う人。
「大吉ひいたのは俺です。
それは変えられません。
でも、正宗さんがひいたのが欲しいんです。
今年のお守りにしたいです。
確率の問題なら俺のと交換しても問題ないですよね」
雨風避けのテントの中だが、一応は外だ。
三条にしては大胆なお強請り。
長岡だってそれを叶えてやりたい気持ちもあるが、吉を渡すのも──それも病気に気を付けろと書かれている──渋る。
「大事に持ってますから」
「……人から離れた場所だからってそんな事言って。
帰ったら覚えとけよ」
渋々交換してくれた長岡にありがとうございますと頭を下げると此方こそありがとうと頭が下げられた。
「御神籤ってなんか財布に入れちゃいますよね」
「わかる。
なんでだろうな」
大吉よりもご利益がありそうなそれを財布に大切に仕舞った。
部屋に帰ろう。
同じ部屋にだ。
そんな事さえ嬉しい三条はふにゃふにゃ笑いながら歩き出す。
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