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第389話
本棚にずっと置かれたままの文庫本。
あの凍えそうに寒い日、持ってきた耽美小説。
何度も読んだそれを、そっと抜き取ると寝室から長岡が出てきた。
「遥登もコーヒーのおかわりいるか?」
「あ、立ってるついでですし俺が淹れてきますよ」
「良いって。
ゆっくりしてろ」
もう時計の針は天辺を指そうというのに大きな欠伸をして、眠そうにする長岡はマグを両手に持って炊事場へと向かった。
気だるげな姿も格好良い。
見送る後ろ姿に三条は欠伸を噛み殺した。
寝不足という訳ではない。
三条は長岡につられて、ミラーニューロンだ。
起き抜けのままの寝室はあたたかく、特別番組が部屋を賑やかにしてくれている。
正月は、テレビの向こうも1日目から笑いで溢れていた。
誰の笑い声かは分からないが楽しそうでなによりだ。
就寝前言った通りベッドの上でごろごろと休日を漫喫していた。
「牛乳適当に入れるぞ」
「ありがとうございます」
炊事場からの声に顔を見せると、向こうも此方を覗いていた。
さりげないこういうことろが好きだと胸がきゅーっとする。
本をサイドチェストに置くとそのまま寝室を抜け出て、香ばしいにおいの隣に並ぶと眉を下げて微笑まれた。
「待ってりゃ良いのに。
ほら、どうぞ」
「ありがとうございます」
そのまま牛乳を片付ける背中に手を伸ばすと驚いた顔が此方を向く。
「どうした」
「あ、…いえ…」
ふい…と視線を落とす三条がなにを考えているかなんてわかる恋人は目を細めた。
今度は長岡が手を伸ばし、髪を撫でくり回す。
「早くベッド戻ろうな。
待ってろ。
洋梨も剥くから暫くは動かなくて良いぞ」
「はい…っ」
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