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第390話
「あの…読みづらくないですか」
「そうか?」
近いというよりくっ付いてると言った方が正しい体勢──後ろから三条を抱え込んだ──で本を読んでいる。
ベッドに戻ってきてからずっここ。
読みづらいと思うのだが、長岡本人はご機嫌だ。
長い指がページを捲る度にインクのにおいが僅かにする。
自分の手の中のものより、長岡の方が気になってしまう。
今日は特にだ。
一際大きな笑い声に賑やかしに点けたテレビを観ると首筋にあたたかなものが触れ驚いた。
「…っ」
振り返ると視線を本に落とした長岡はどこか楽しそうにしている。
時々こうした子供みたいな悪戯をする9つ年上の恋人。
知らん顔にしては広角が上がっている。
恥ずかしそうな顔を逸らし再度テレビにし視線をずらすと今度は肩に顎をのせてきた。
「俺、邪魔じゃないですか…?」
「邪魔じゃねぇよ。
腹あったけぇし、良いにおいするし最高。
あ、洋梨食うか?
口開けろ」
「え、あ、いただきます」
口元へと運ばれてきた瑞々しい洋梨。
行儀悪くベッドの上で口にした。
芳醇な芳香に蕩ける甘さ。
この寒い季節のみの贅沢に頬が蕩ける。
「んま…」
「沢山食え」
長岡も食べながら同じ様な顔をしていた。
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