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第411話

そろそろ、マンションの彼方此方から夕餉のにおいがしてくる頃。 色欲を満たしたら、次は食欲だ。 「遥登、悪りぃんだけど煮物作ってくれるか」 「それは構いませんけど」 夕飯の仕度を手伝うと申し出たのは三条からだった。 長岡の手によって、郷土料理の煮物の材料が次々と作業台に置かれていく。 祝い事を筆頭に、催事には必ずと言って良い程用意されるこの辺りではポピュラーな物。 勿論、正月にも食べる。 里芋は亀田からお歳暮だと送られてきた沢山の野菜の中に入っていた物の1つ。 銀杏には歳の数しか食べてはいけませんよとメモ書きがされていたらしい。 嬉しそうな顔でメモ書きを見せてくれた。 小論指導の際に見たきっりの丁寧な文字。 そういえば、祖父母もそう言っていた。 亀田にとって長岡は可愛い後輩、と言うより家族に近いのかもしれない。 長岡が大切にされていると自分まで嬉しくなる。 誰かと付き合うと色んな感情が2倍になる喜びを知った。 「折角遥登いるならちょっと正月らしい事しようと思ったんだけど、遥登の家のってどんなんか気になってな。 作らせて悪りぃな」 「お安いご用です。 家は割りと甘めですよ。 甘くて少し薄いですかね」 「子供の口に合わせてんのか? なんか想像出来るな」 「カレーも甘口ですし、それは否定出来ませんけど…」 あとはしょうが焼きと焼き魚とどっちが良い?と聴かれ散々頭を悩ませる。 うんうん唸る三条に、なら正月だし贅沢に両方食うかと持ち掛けられ大きく見開いた目を向けるとわしゃわしゃと髪を掻き乱された。 「正月なんだし贅沢したって罰は当たんねぇよ」 「でも…」 「明日一旦帰んだろ。 俺も実家に顔出すし、美味い内に食っちまおうぜ」 気負いさせない言葉にこくんと頭が上下した。 狡い聴き方だとしても、そうでもしなければ三条は遠慮ばかりだ。 長岡は三条の扱いが上手い。

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