412 / 1502

第412話

一人暮らしにとって値段はするが干し貝柱のグルタミン酸イノシン酸の旨味は身体に染みる。 そこに干し椎茸のグアニル酸が加われば、旨味の相乗効果ですげぇ美味い。 出汁文化のある日本に生まれて良かったと思う位美味い。 味見だと少し皿に貰ったが正直汁だけでももう少し飲みたいくらいだ。 「薄くないですか?」 「いや、出汁が効いててすげぇ美味い」 「甘過ぎませんか?」 「ん、遥登の作ってくれる味がする」 「甘いんですね…」 三条はそう言って眉を下げて笑うが、そんな事はない。 優しくて落ち着く味がする。 とても美味しい。 「ちげぇよ。 遥登が育った味が食えんのすっげぇ嬉しいんだって」 きょとんとしてからふわふわと笑った。 この花の美しさは何事にも変えられない。 具沢山の煮物はもう少し煮込んだ方がのっぺりしてきて美味い。 鍋の中を覗いてふと表情が緩んだ。 くつくつと煮える煮物と、台所に立つ三条。 すっかりこの部屋に溶け込んだものだ。 そして、以前の冷々とした部屋は印象を変え、随分と明るくそしてあたたかくなった。 部屋の配置は何も変えていないのにだ。 「どうかしましたか?」 「いや。 遥登が居ると楽しいなって思ってただけだ」 「へへっ、嬉しいです」 温和な三条によく似合う笑顔が溢れる部屋はこんなにも姿を変える。 もう冷たい部屋なんて思い出せない

ともだちにシェアしよう!