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第413話
市販のお節セット以外あまり正月らしくはない食事だが、テーブルに並べると三条の目はキラキラと輝いた。
本当に食うのが好きなんだと分かる顔を座らせると、長岡もその隣に腰をおろす。
「いただきます」
「いただきます」
手を合わせる三条に習い、食前の挨拶を済ますと先ずは味噌汁で胃袋をあたためてから煮物に手を伸ばした。
とろっとしてくたっとした感じがいかにも家庭っぽくて微笑ましい。
「んめぇ」
「お口に合いますか?」
「すげぇ美味い。
まじで美味い」
同じ物を食べながら三条はにこにこと笑う。
国語科教諭と思えない語彙力だが、恋人の前では教師もなにもない。
ただの人だ。
平等の。
三条の事を良い子とつい形容してしまうが、お利口なだけじゃないのも知っている。
田上や吉田に悪戯している姿も見てきた。
三条は、人の痛みの分かる子だ。
だから、人が笑うと嬉しそうにする。
3人組でいる時の年相応の顔も、見た目以上によく食べる所も、勉学に真面目に向き合う真面目な所も、セックスの時に快感を強請る淫らな所も、全部ひっくるめて“三条らしい”。
何を当たり前な事を言ってるんだと思われるだろうが、誰かを心から愛するってのはその“らしい”が愛おしく思える事なんだと思う。
三条が短所だと思う事だって、長岡にとって好きなところかも知れない。
理屈じゃないだろ。
料理だってそうだ。
多少の味の好みはあるが、美味いと思ったから美味いと伝える。
それで良いと思う。
「正宗さんの家はどんなのですか?」
「ん?
あぁ、ユリ根とか入ってたな」
「ユリ根のも美味しいですよね。
そういえば、うちはお正月しかいれませんね」
「そうなのか?
あれって正月以外ってスーパーで売ってるか?
見たことねぇな」
「言われてみるとそうですね。
意識して見てないからかな。
あの…正宗さんの家の、俺も食べてみたいです」
おずおずと申し出された言葉に頷こうとしてやめた。
「キスしてくれたらな」
「……食事中ですよ」
なんて言いながらも口にキスしてくれんだけどな。
きちんと唇に押し付けられたやわらかな唇を食むと、椎茸の味がした。
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