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第415話

先ずはタオルドライで粗方髪を乾かしていく。 濡れて色を変える髪が湯上がりのしっとりとした色っぽさを引き立てる。 本当に格好良い。 こんな人が恋人なんだといまだ夢見心地だ。 ま、夢じゃないんだけどね。 「正宗さんの髪色綺麗ですよね」 「市販品の色だぞ」 「似合ってます」 「ははっ、遥登に誉められると嬉しいよ。 次もこの色にする」 「俺も染めようかな」 「気分変わるし良いんじゃねぇか。 でも、その天然の色も好きだけどな」 好きだと言ってもらえた事が嬉しい。 この色に生んでくれた母さんに感謝だ。 滴る水滴が粗方なくなるとドライヤーの電源をいれた。 あたたかな風邪が襟足を擽り、長岡の表情は緩んでいく。 教師の長岡しか知らない人が見たら、驚くであろう穏やかな顔は恋人だけが見られる特権だ。 見せびらかしたい様な誰にも見せたくない様な。 恋をすると我が儘になる。 我が儘はいけないと解っていても、長岡に対しては独占欲を抱いてしまう。 胡座をかいて背骨をだらしなく丸めたまま麦者に手を伸ばした。 溢してしまっては大変だと一旦ドライヤーを止め手を離す。 「髪乾かし終わったらアイス食おうぜ。 大人の苺味買っといた」 「はいっ! ありがとうございます」 ごくごくと喉を鳴らす長岡には見えないが、三条はとても楽しそうに口角を上げていた。 それはアイスのお陰じゃない。 まだ、起きて一緒に居られる事が嬉しいから。

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