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第422話

歩き慣れた玄関アプローチを抜けると、窓辺に柏が干されていた。 よ、と手を上げると尻尾がゆっくりと大きく揺れる。 良かった。 まだ忘れられてはいないみたいだ。 「ただいま」 「あ、正宗。 もー、だから連絡しなさいって」 「…忘れてた」 今日は本当に忘れていた。 だが、正月に適当に帰るとは連絡していたから成長はしている。 母親はなら夕飯は正宗の好きな物にしようと近くのスーパーの広告を見にリビングへと引っ込んでいった。 スニーカーを適当に端に寄せずんずんと柏の元へと歩く。 炬燵を横目に縁側へ。 日当たりの良い特等席に置かれた座布団の上に柏はいた。 長岡が学生の頃から此処が柏の特等席だったが、今も変わりない。 変わったのは床に敷かれた座布団のカバー位だ。 においも景色も変わってない、懐かしい場所。 柏の隣に胡座をかき、日の光を浴びる。 暖房もついていて、あたたかく気持ちが良い。 「ただいま」 そして、そっと眉間を撫でた。 「柏、たまには動けよ」 すっかりおじいちゃんになった先代猫はちらりと長岡を見て、ゆっくりと目を閉じた。 長生きしてくれ 暫く撫でながら2人で日向ぼっこをする。

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