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第426話
たった1日会わなかっただけなのにもう会いたいと思うのは、前日の父親の顔のせいだ。
やわらかくてあたたかい表情。
母さんの事を今でも愛していると解る、そんな顔をしていた。
父は母が好きだ。
言葉でも伝えているし、結婚して20年が経とうともいってきますのキスをしている。
だけど、そんな目に見える愛の表現じゃなくて、もっと尊いものの様に思った。
愛していると口に出すのは簡単だ。
嘘だって言えるのだから。
でも、表情は嘘を吐けない。
瞳孔や口角の筋肉の動きなんかは自分の意思でどうこう出来るものではない。
それと同じで父は愛おしいものを見る目で母を見ていた。
愛していると口に出すよりその思いが伝わると思う。
あたたかなバスの車内でぼーっと窓の外を眺めていた三条は、いつも降りる停留所の名前が読み上げられハッと停車ボタンを押した。
『次、停まります』
アナウンスの声に、コートのポケットから使い古されたパスケースを取り出し下車の用意をする。
甘いお菓子もしょっぱいお菓子も買った。
早く、長岡に会いたい。
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