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第449話

自宅までの短いデートを楽しんでいる最中、三条ら隣の恋人へ視線を移した。 さらりとコートを羽織りプレゼントのマフラーを巻いた長岡は背伸びせずとも大人っぽくて格好良い。 若々しいのに大人の魅力があるなんて羨ましい。 俺の自慢の恋人だ。 運転する姿もたまらない。 反対斜線を走る車のランプが綺麗な横顔を淡く縁取った。 キラキラ光る髪の毛と合わさり目映い。 「あ、コンビニ寄って良いか?」 「はい。 どうぞ」 ウインカーがカチカチ左折を知らせると、駐車場へ吸い込まれる様に入っていった。 駐車している自動車は少なく暗さもあってキャップを被っていれば隠れる必要もない。 やっぱり夜は良い。 「少し待っててくれ。 用があるなら鍵かけてくれれば出て良いから」 頷きはしたがトイレも大丈夫。 大人しく待ってる事にする。 長岡のにおいのする車内も好きだ。 コンビニに入っていった長岡をぼーっと待つ。 正宗さんの香水のにおいも混ざってて良いにおいすんだよな 甘くなくて、でも冬でも使える柑橘のにおい。 少し苦いのは柚子のにおいだろう。 オフにしか付けない香水のにおいの混ざる車内は漸く暖かくなってきた。 だけどまだ末端は冷たくて無意識のうちに指先を擦ってしまう。 「待たせて悪かった。 ほら、飲みな」 ビニール袋を揺らしながら帰ってきた長岡に顔を向けると、あたたかいお茶を手渡してくれた。 「ありがとうございます。 あの、いくらですか」 「キス1回分」 「キス…?」 今度は半分に割られた肉まんが目の前に突き付けられた。 「やっぱ2回な」 「2回」 「まぁ、食え」 ホカホカの肉まんに冷えていた指先が溶けていく。 大きく口を開けてかぶりつく長岡に習って三条も少し冷ましてから齧り付いた。 「んま」 「そりゃ良かった」 「腹減ってたんですか?」 「ん? ん、まぁな」 なんて、嘘なのは知っている。 三条が指先を擦り合わせているのを見ていたんだろう。 だから、あたたかい物を買ってくれた。 その気持ちの方があたたかい。

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