503 / 1502

第503話

「遥登、眠いとこ悪いけど水飲め。 多分、水分足りてねぇだろ」 ぺちぺちと頬を叩かれぼんやりした視界に長岡の顔が入る。 「…は、ぃ」 本当だ。 喉が張り付いて声が出にくい。 「ゆっくりな」 甘くないコーヒーも美味しいが、セックスの後は水も美味しい。 一口分、口に含んでは飲み込み、また一口含んでは飲み込む。 余程乾いていたらしく言われた通りゆっくりとだが半分近くを飲んだ。 末弟の方が飲むのが上手だと言われても頷けるだろう。 ちびちびと口腔内と喉を潤した。 「風呂行こうな。 腹ん中綺麗にして、ゆっくり寝よう」 こくんと頷くものの、もう目蓋は重くて横になったら寝てしまいそうだ。 冷たくて大きな手が頭を撫でる。 気持ち良く駄目になる。 ほんの少しだけ目を閉じたい。 だけど、それをしてしまったら寝てしまう。 あれだけ身体を動かした長岡は眠くないのだろうか。 「んー…」 「風呂な」 長岡の手助けを借りなんとか後処理を済ませ浴室から戻ってきた三条は清潔さを取り戻したふとんに顔を埋めた。 部屋には消臭剤が撒かれ青臭いにおいは薄まり、ベッドは良いにおいがする。 長岡のにおいと、柔軟剤のにおい。 清潔を取り戻した寝具にいやらしさは陰もない。 隣に寝転んだ長岡がおやすみの声に殆ど呂律の回らない返事をしたつもり。 気持ちの良い毛布に包まれバレンタインは終わった。

ともだちにシェアしよう!