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第507話
一足先に洗顔を済ませた長岡はタオルで適当に顔を拭ってそれをやめた。
折角の顔立ちでも本人は興味がないのでいつもこんな感じで終わりにする。
勿体無いと眉を下げながら笑っていた三条だが、それも慣れたのか空いた洗面台で顔を濯ぎだす。
もう見えなくなった旋毛が鏡に写り、長岡は存分に見詰める。
ぷはっと顔を上げると旋毛は見えなくなってしまった。
いつの間にこんなに伸びたんだろうな。
一緒に居過ぎてここまで大きくなってやっと分かったのが勿体無い。
「歯磨き済んだし良いだろ」
「俺、まだ顔が濡れて…」
そんなのお構いなしに長岡はキスをした。
やわらかく触れる唇にぽわっと三条は赤くなる。
昨夜のセックスが嘘の様に初な反応。
水滴の伝う顎を拭ってやると俯き顔を隠してしまったが、このギャップがたまらない。
加虐心を擽るというか意地の悪い事をしたくなる。
「昨日は優しくしてやれたか?」
「……はい」
「頭は馬鹿になった?」
「…………ん」
拭った水滴がポタッと床に落ちた。
顔を近づけたまま、殆んど同じ背丈になった恋人を観察する。
濡れた睫毛も前髪もほんの数センチ先で蛍光灯の光を反射している。
癖のない髪からまた1つ水の粒が落ちた。
こめかみにちゅぅっと唇を寄せながら最後の質問。
「満足した?」
「……その質問は、愚問です」
「んー?」
三条がなんて答えるかなんて分かってはいるが、やっぱり口から聴きてぇしな。
「正宗さんの事で満足する事なんてないです」
満点の答えに、今度はきちんと唇にキスをする。
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