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第517話

デートを兼ねての送迎ならそろそろ部屋を出る時間だ。 いつものようにソファの肘掛けを枕代わりにしていた長岡は時計を見るとそろそろだと身体を起こした。 更に本を閉じた長岡に三条は口を開く。 「あの…」 「ん? どうした」 「…えっと、」 袖を握って口を開こうか悩んでいる三条が何を考えているかなんて、もう分かる。 ぽん、と頭に触れると八の字を描く眉の下で不安そうな目が此方を見上げた。 なんて顔をしてるんだ。 ソファから降り三条の隣に座ると三条と向き合う。 「悪い事ばっか教えちまったな」 「ご迷惑になるなら…」 「んな訳ねぇだろ。 もう1泊してくれんだろ?」 なんで分かるんだと言いたげな顔に微笑みかけると、安心させる様に頬から頭をゆっくりと撫でた。 こくこくと何度も頭を振って意思表示をする恋人が可愛くてしかたがない。 だって、昨日だって泊まってくれたのにもう1泊したいだなんて嬉しいに決まってるだろ。 また、この子供体温を抱いて眠れる。 起きたらおはようと挨拶が出来る。 一緒に飯が食べられる。 そんなしあわせな1日をもう1日伸ばして良いなんてなんてご褒美だ。 サラサラの髪に指を差し入れ梳くと、不安そうだった目が細められた。 「すげぇ嬉しい」 嬉しい、の口のままキスをする。 悪い事ばかりを教えてしまった気もするが、その分甘えようとしてくれる姿が愛おしい。

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