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第528話
布地のボールを投げる末弟と遊んでいる長男はにこにこと相手をしていた。
台所から漂ってくる良いにおい。
醤油の炊けるにおいはどうしてこんなに腹が減るのか。
そんな話をしながらまたボールを転がした。
「綾登、良いにおいするな」
「ぶー」
掴む動作が上手くなり動きも細かく、遊びに幅が出来てきた弟からまたゴールが転がってきた。
転がり返すところんと寝転がりころころしはじめる。
もうボール遊びは飽きたのだろうか。
「もう遊ばないのか?
俺、お茶のおかわりに行ってくるぞ」
飲み物のお代わりがてら鍋の中を覗きに行くと、ぶり大根がクツクツと美味しそうに煮えている。
なんだか湯気まで美味い気がする。
「うはっ、ぶり大根!」
「おばあちゃんが大根沢山持ってきてくれたからね。
それに、今日は寒いから煮込み料理が良いでしょ」
「明日はおでん?」
「おでんが良い?
じゃあ、そうしようか」
お出汁の好きな綾登にはおでんの具を小さく刻みうどんと一緒に煮たら喜びそう。
味見したいなと箸を取り出すそれを阻止する声に母と動きを止めた。
「うー?」
幼い声に足元を見ると台所へ進入出来ない様に設置したガードが揺れる。
なかなか戻ってこない兄を探しに来たのかベビーガードの近くに綾登がいた。
やっと見付けたと笑いだした綾登には、かくれんぼか何かだと思ったのだろうか。
それとも、待ってたのになんで帰って来ないのかと迎えに来てくれたのだろうか。
「綾登、そこにいたの」
「また遊んでくれるのか?
嬉しいな。
よし、向こう行こう」
マグに麦茶を注ぐとそれを片手に、もう片側に弟を抱きぶり大根は夕飯までお預けだなと笑いかけた。
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