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第529話
玄関ドアの開く音と共に、ただいまと少し低くなった声が聞こえてきた。
綾登は誰が帰ってきたのか分かるのかリビングのドアを指差しながらうにゃうにゃと喋る。
今日は帰りが早いがそれでも分かるらしい。
「優登、おかえり」
「ただいま。
綾登、また兄ちゃんに甘えてんのか」
「ぶー」
嬉しそうにする三男を見て次男も満更でもなさそうな顔をした。
そりゃ、こんな小さな弟が出迎えてくれたら嬉しい筈だ。
ブラコンの気がなくとも。
なら、兄弟が大好きな優登にはとても嬉しい事だろう。
「兄ちゃん、宿題分かんないとこあったら教えて。
それとゲームもしよ」
「ん、しような」
母親からシンク前を奪うとハンドソープでしっかりと手を洗い、うがいをする。
三条もそうだが、そのままリビングにいるせいか洗面台に行って手洗いをする方が少ない。
難しい年頃になっても、うがい手洗いだけは素直にするから可愛いんだ。
濡れた手のままクツクツと煮えているなべの蓋を取ると立ち込める湯気に笑顔を見せた。
「うはっ、ぶり大根!」
数分前に見た光景が再度繰り返され、母親は小さく笑った。
「なんだよ…」
「ついさっき、遥登も同じ事言ってたから。
箸に手を伸ばしてるところまでそっくり」
「腹減ったし…」
「遥登は味見し損ねたけどね」
熱々の大根を持ち上げるとしっかり冷ましてから齧り付いた。
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