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第530話
「んーんーっ」
「美味いな」
おやつのバナナを食べる兄弟はよく似た顔で穏やかなおやつ時を過ごしている。
大学も休みで暇かと思えば、綾登が遊ぼうとやってくるので昼寝の時間以外はそれなりに充実した毎日を過ごしていた。
中学から帰宅した優登も宿題や復習を教えて、ゲームしようと誘ってくれる。
歳が離れている分、一緒に過ごすことの出来る時間は短い。
就職をして家を出てしまえば今の様な穏やかな時間はぐっと減る。
だから、考え方を変え弟と過ごす為の時間だと優登と綾登の近くに兄はいる。
とは言え、質問出来ない問題を長岡に教えて貰ったり大学生としても過ごせている。
口いっぱいに頬張り美味しいと笑う綾登は毎日色んな成長をしていて、昨日出来なかった事が出来たり話したり面白い。
「でっけぇ口」
「いひ」
台所からベビーマグを持って出てきた母親に漸く気が付いた綾登はバナナを差し出した。
「まー!」
「分けてくれるの?」
小さな脚をバタつかせておやつを差し出した末弟。
「ありがとう。
いただきます」
ほんの少しだけ分けて貰い口にした母親を見て嬉しそうにした。
「美味しい。
綾登、ありがとう」
そうやって、分け合うご飯が美味しいと感じて欲しい。
大好きな人と食べるご飯が美味しいと、それが大切な事だと覚えて欲しい。
生きる上で大切な事は小さい頃に感じ教わるものだ。
お友達と喧嘩をしたら仲直りをする。
赤信号は渡らない。
帰ってきたらうがいと手洗い。
ご飯の前はいただきます、食べ終わったらごちそうさま。
ありがとうとごめんなさいはきちんと口にする。
その確かな成長が目の前にあった。
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