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第541話

それは三連休最終日の事だった。 いつも賑やかしに点いているテレビは今日は静かだ。 さっきまでバラエティ番組で誰かの笑い声がしていたのに、それが終わるとスッとテレビ画面は暗くなった。 その理由が分かる三条は長岡の優しさに甘える。 「遥登、暫く俺が迎えに行くからどっかで待ち合わせな。 弟まだ小さいだろ。 なんかあったらいけねぇなら」 長岡が一方的に約束を取り決めた。 いつもに比べ強引な恋人に三条は眉を下げる。 「でも…」 「朝もデートしようぜ」 世の中がこんな状況で人が多い所に三条を押し込め、自分の元に来るのを気にしているのは解る。 確かに自分が長岡の立場ならそうする。 幼い弟もいるんだから尚更だ。 でも、甘え過ぎではないだろうか。 それなら会わないという選択の方が長岡の負担にならなくて良いんじゃないか、と。 でも、その考えが違うと思ったのは長岡の顔が本当にデートが楽しみだという色を見せていたから。 心配しているのも本当。 デートが楽しみなのも本当。 それなら、答えは1つしかない。 「……良いんですか?」 「遥登とデート出来んの楽しみなのは俺だけか?」 「俺もっ、楽しみです。 あの、よろしくお願いします」 「任せとけ」 長岡が自分の家族を心配するように、自分の家族を心配してくれる事が有難い。 申し訳ない半面、すごく嬉しい。 腕に手をかけると安心させる様に優しく微笑んでくれる。 三条が必要以上に不安にならない様にする為に。 先生の時もそうだ。 心配なんてしなくて大丈夫だと、見えない所で沢山の事をしてくれていた。 入学式直後のホームルームで言った通りA組の学校生活が円滑に進められる様にしてくれていたのを知っている。 本当に大きな人だ。 大きな目標だ。 生まれてまだ1年も経っていない綾登にとって安心な暮らしとは言えない。 誰が悪い訳でもないし、誰かを責めるのも違う。 自分に出来る事をして自分自身や家族、大切な人を守っていくしかない。 早くいつも通りの、当たり前だった日常が戻ってくれば良いのにな。 デートは嬉しいが、そう思わずにはいられない。

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