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第544話

ドライブをして存分に外の空気を浴びた2人は公園の駐車場で昼飯を食べる事にした。 先刻まで遊んでいた親子も昼時になると帰宅した。 近所なのか両親と楽しそうに手を繋ぎ帰っていった幼児も今頃昼飯を食べている事だろう。 お陰で人目を気にせず食べる事が出来る。 「んー、美味しいです」 デニッシュの中央にクリームチーズと季節の果物をのせたそれは、とても美味しい。 クリームチーズは生地と先に焼いた事で濃厚さが増しているのに果物の爽やかさがクドさを感じさせない。 もう一口齧り付いた。 「そういうの田上とよく食ってたろ」 「はい。 毎回、苺貰ってました」 「へぇ? 優しいんだな」 「からあげとか肉巻きと交換でしたけど」 春の気配を感じながら少し早い恋人との昼食に無防備な顔をして花を咲かせる三条に、長岡も穏やかな笑みを称えている。 その顔が更に三条を笑顔にさせていた。 高校在学中の話は、 懐かしいものへと変わってしまったがいまだ色鮮やかに記憶に残る。 入学式もあの真っ赤な教室も、修学旅行も受験対策も。 強烈な思い出で忘れる事は出来ない。 忘れたくない、思い出。 「じゃあ、俺とも交換してくれ」 「はいっ。 勿論です!」 丁度中程を食べているので、1番美味しい所を食べて貰える。 だが、パンを差し出すも長岡は齧り付かない。 「キス1回だと、何と交換して貰えんだ?」 パンを差し出す手をするりと絡め取られ胸がドキドキと騒ぎ出した。 「……なんでも、」 「なんでも? なら、部屋に帰ったらイチャイチャでも良いのか」 そんなの交換じゃなくても…したい。 長岡に沢山触れたい。 沢山、触れて欲しい。 こくんと1つ頷くとバレない様に指を絡め取られた。 大きくて冷たい手が、まるで約束だと指を握る。

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