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第566話
ぽんぽん、と誰かが頭を触る。
正宗さん…
眠たい目を薄く開けるとその手がするりと頬を撫でた。
冷たくて大きな手。
それと、穏やかに微笑む恋人。
「遥登、飯食えるか」
「めし……」
寝惚けた頭が次第にはっきりしてくる。
飯。
少し早かったが一緒に昼飯を食べた。
ということは、早くとも夕方。
「え…もう、そんな」
「まだ寝てても大丈夫な時間だ。
少し早く起こしちまった」
カスカスの声に驚いた。
思い出さなくても原因は解る。
長岡は傍らのマグを手渡した。
いつもの甘くないコーヒーだ。
温くて丁度良い温度と言う事は、また長岡の方が先に起きたのか。
寝顔が見たかった。
「柔麺作るけど食えるか」
「にゅ、めん…」
「とりあえず飲め。
カスカスだぞ」
手渡されたコーヒーをちびちびちと飲み喉を潤した三条は頷く。
喉が乾いていくらでも飲めそうだ。
「あの、風呂……いれてくれたんですよね。
ありがとうございました」
「あぁ、色んなのに塗れてたしそのままじゃ気持ち悪いだろ。
腹ん中も一応出しといたけど大丈夫か?」
かぁっと顔中がアツくなる。
後処理までして貰ったのか。
眠い中なにかとんでもない事を口走った様な気もするが、眠過ぎて覚えていない。
これまでだって、そういう事は多々あったがいつまで経っても慣れる事はない羞恥心。
楽しそうに笑う長岡は、けれどそれ以上追求してこない。
「手伝い、させてださい」
「疲れてんだろ。
ゆっくりしてろ」
「…駄目、ですか」
「駄目じゃねぇけど、たまには俺が作った飯も食ってくれよ。
かきたまのにしてやるから。
それに、ヤりまくったから脚に力入んねぇんじゃねぇのか」
マグから顔を離した三条の頬を両手でむにむに揉む恋人の声に意地悪さは感じない。
「そんな柔じゃないですよ」
鈍く痛む腰には湿布が貼られている。
どれ位かは分からないが眠った事で体力だって少しは回復したはずだ。
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