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第572話
段々と頭が冷めてくる。
それと同時にとんでもない羞恥心が襲ってきた。
「あの…、落ち着いてきました…」
「本当か?」
赤信号なのを良い事に、長岡は運転席から手を伸ばし三条の顎に指をかけた。
肩を跳ねさせ顔を真っ赤にする三条。
その言葉は本当だと確信した。
「本当だ」
「そういう確認の仕方は…」
「正確だろ?」
信号は赤から青に変わり、自動車はゆっくりと走行を再開する。
楽しそうな顔の輪郭を外灯がぼんやりと縁取り、茶けた髪が他の色に彩られる姿はとても綺麗だ。
朧気な雰囲気がより長岡の魅力を引き立てる。
周りが暗くて隣に座る事が出来るお陰でそれがこんなに近くで見られるんだから、夜は良い。
風が少し冷たくて隣にくっ付く理由にもなる。
夜は魅力的だ。
「……とても恥ずかしいです……」
「ん、もう少しデートしような。
どっか梅でも咲いてねぇかな。
花見してぇ」
隣の恋人の顔は本当に楽しそうで嬉しそうで、たまらない気持ちになる。
そっとコートの裾に手を伸ばすと、その顔はよりしあわせそうに破顔した。
自分も同じ顔をしているのに三条は気が付いていない。
こんな時間がもっと続けば良いのに。
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