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第573話

公園に咲いている1本の梅を見ながら遠回りをしてきたが、もう三条の住む町に到着してしまった。 「着いちまったな」 「…はい」 楽しかった分だけ帰りは寂しい。 ぼんやりとスニーカーを見ていた視線を長岡にやると、長岡は安心させるように微笑んだ。 コートを握ったままの手をするりと絡め取られ、冷たくて大きな手がしっかりと握る。 そして、甲にキスをした。 ちゅ、と形の良い唇をくっ付けられ、まるで神聖な行為のようでドキッとする。 「ははっ、こういうのも好きか」 「……正宗さんが格好良いから…」 「似合うか?」 「すごく」 繋がったそこからじんわりとあたたかくなっていく。 指の細さを確認するように握られる手に安心するのは、長岡が安心する人だからだ。 だから、手からもそれが伝わってくる。 「やっぱあったけぇな」 「寒いですか?」 「大丈夫だよ。 でも、遥登はあったけぇ」 柔和な眼差しに言葉では言い表せない気持ちが込み上げてくる。 なんでこんなに格好良いだろう。 優しくて大きくて、もっと独占したい。 もっと触れたい。 「正宗さん、キス…しても良いですか…?」 「ん、勿論」 「あの、失礼します」 運転席のリクライニングを倒すと三条から身を乗り出し、首を伸ばした。 目を瞑りながら顔を近付けたせいで唇の端にキスをしてしまう。 思わず目を開けると長岡は色っぽく目を細めた。 「唇はココだろ」 「ん…」 嬉しそうな声で顔の位置を訂正されまたキスをする。 首の後ろに回された手や頬を撫でる手の気持ち良さに、長岡がいつもしてくれるのを真似して唇を食むとより嬉しそうに笑ってくれた。 俺は、恋人のこの顔がなにより大好きだ。

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