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第582話
三条達が暮らす市内は、急過ぎると言う事で市立学校は来週頭からの休校が決定したらしい。
とりあえず今週は学校に行ける。
今年度は今週しか学校に行けない。
「行ってきます」
「じゃ、送ってくる。
行ってきます」
雨がしとしとと道路を濡らす中、弟を学校まで送る事にした三条はお下がりの制服を着た後ろを歩く。
ついでに、綾登のおやつも頼まれた。
川向こうの薬局は朝7時から開店してるので、気分転換も兼ねる事が出来て丁度良い。
「一樹の家で良いんだよな?」
「うん。
連絡したから大丈夫。
ありがとう」
昨日、夕食を食べ終えると優登はお菓子を作りはじめた。
嫌な事があったらお菓子と一緒に焼いちゃえば良い、と若干不穏な事を言っていたが、その通りだと思う。
たまごでくるんで食べても良い。
きちんと受け入れなければいけないのなら、各々が受け入れやすいカタチにすべきだ。
優登はちゃんと大人になっている。
誇らしい弟。
何もしてやれなくてごめんな。
「帰りも連絡くれれば迎えに行くから。
ついでに、夕飯の買い物付き合ってくれよ」
「うん。
ありがとう」
「今日の当番、俺だしな。
優登の好きなの作るよ。
何が食べたい?」
「肉!
がっつり食いたい」
「ん、考えとく」
ニュース番組もラジオも、朝から聞くには暗い内容過ぎる。
綾登はいないが、教育番組でも点けていよう。
せめてもの賑やかしだ。
薄暗いの空だけで十分。
大切な人達まで暗くならないでくれ。
ウインカーを点滅させ、ハンドルを切ると向こうに同じ制服姿の人影があった。
ゆっくりと車を停めると優登の声にも元気が増す。
「一樹、おはよう」
「おはよー。
遥兄もおはようございます」
「おはよう。
忘れ物大丈夫か?
行くよ」
頭を下げる一樹の母親にそれを下げ返し、自動車はまたゆっくりと動き出した。
後部座席から聞こえてくる楽しそうな声が嬉しい。
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