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第585話
手を洗う水はまだ冷たいが確実に春の訪れを感じる。
やっぱりお湯で洗えば良かったと思いながらも、そのまま冷たい水でしっかりと石鹸を流した。
ピッと水を払うとタオルで更に拭く。
清潔になった手でビニール袋をガサガサ揺らして中身を取り出た。
「綾登、お魚せんべい食べちゃってごめんな。
これ買ってきたからおやつに食べてな」
あ!と、くりくりした目が兄をとらえた。
すっかり忘れていたのか指を指して母親に食べたいとアピールする。
「朝ご飯食べたばっかりでしょ。
おやつだよ」
「あー、ぅんっ」
「おやつね」
母親にそう言われ唇を尖らせる。
本当に駄目?と兄を見上げるも、兄もいつもの顔でにこにこしているだけでくれはしない。
むくれた頬がぷくっとして可愛い。
大福に包まれたアイスみたいだ。
食べてしまいたい位に可愛らしい。
そう言いながら頬をつつくと、鈴みたいな軽やかな声が響いた。
やっぱり今日は良い日になる。
「遥登、洗濯してくるから綾登みててくれる?」
「うん。
綾登、俺と遊ぼうな」
諦めたのか、それとも遊ぼうと言われたのが分かったのかうぇへへっも笑うと頭をぶつけてきた。
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