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第586話

中学校前の道路には既に数台の車が停車していた。 雨のせいだけでなく、これから習い事の生徒もいるのだろう。 自分が在学中は移動の車の中でおにぎりを食べなから少し離れた場所のスポーツクラブに通っている同級生もいた。 本人は勿論、送り迎えや食事の準備をする保護者も大変だろうなとぼんやり思っていたが、こうして迎えに来る様になって大変だと思い知る。 その横を通り過ぎ、学校脇の砂利道─父兄用の駐車場─に車を停車させた。 そのままスマホを弄っていると砂利を踏み締める音が近付いて来る事に気が付き顔をあげる。 ジャージ姿の弟がすぐそこにいた。 「兄ちゃん!」 「おかえり。 待ってる間に小雨になってきたな」 「うん。 来てくれてありがとう」 「良いよ。 夕飯の買い物手伝って貰うしな」 指定の鞄を先に押込み、自分も入る。 弟から雨のにおいがした。 傘を振り水を飛ばして漸く落ち着ける。 「タオルあるから濡れてたら使いな。 行くぞ」 ドアを閉めシートベルトが締められる音を聞いてから、またゆっくりと駐車場を出発した。 道を歩く生徒達に水溜まりの水を跳ねさせない様に気を付けながら大きな道路へ出る。 自分が運転する側になり気を付けようと強く決めたのは、それをしてくれない人が多いからだ。 今までの学生生活何度もされてきた。 そして、嫌だと思った。 だから、しない。 「今日、肉?」 「肉。 唐揚げにネギダレかけたやつにしよっかなって。 油淋鶏が良い?」 「唐揚げ最高!」 ほら、良い日だ。 「あと何食いたい?」 「肉豆腐!」 「ははっ、すげぇ食欲」 自分と同じで食べても線の細い優登は、食欲まで似て旺盛だ。 エンゲル係数を支えてくれる祖父母の野菜を沢山入れた味噌汁に和え物も作ると言えば楽しみだと嬉しそうな声が聞こえてきた。

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