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第589話
歩き慣れた玄関アプローチを抜けると、窓辺に柏が干されている。
よ、と手を上げると尻尾がゆっくりと大きく揺れた。
良かった。
まだ忘れられてはいないみたいだ。
無遠慮に玄関を開けると、奥からはーいと声が聞こえてきた。
廊下に顔を出したのは母親。
「ただいま」
「あ、正宗。
もー、だから連絡しなさいって」
「忘れてた」
今日は本当に忘れていた。
だが、正月に適当に帰るとは連絡していたから成長はしている。
母親は、なら夕飯は正宗の好きな物にしようと近くのスーパーの広告を見にリビングへと引っ込んでいった。
スニーカーを適当に端に寄せずんずんと柏の元へと歩く。
こたつを横目に縁側へ。
日当たりの良い特等席に置かれた座布団の上に柏はいた。
長岡が学生の頃から此処が柏の特等席だったが、今も変わりない。
変わったのは床に敷かれた座布団のカバ一位だ。
においも景色も変わってない懐かしい場所。
柏の隣に胡座をかき、日の光を浴びる。
暖房もついていて、あたたかく気持ちが良い。
「ただいま」
そして、そっと眉間を撫でた。
「柏、たまには動けよ」
すっかりおじいちゃんになった先代猫はちらりと長岡を見て、ゆっくりと目を閉じた。
長生きしてくれ
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