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第596話
いつもにこにこしてるけど、いつもより嬉しそうな兄。
まだ熱々のそれから甘いにおいがして、兄の笑顔が深くなるのがとても嬉しい。
まだ小さい頃、母さんが仕事でいない土曜日に兄が焼いてくれるホットケーキが好きだった。
甘くてふわふわしてて、兄と食べるそれは母がいない寂しさを紛らわせてくれていた。
兄と食べるそれはとても美味しい。
それが、お菓子を作る様になったきっかけ。
だから、同じ様に兄にも嬉しい気持ちになって欲しい。
少しでも不安が和らぐ様に。
「食べて良い?」
「勿論っ。
兄ちゃんの為に焼いたんだから沢山食べて良いよ」
「やった。
ありがとう」
早速フォークを突き刺し、兄は執拗に冷ましてから口にした。
レシピ通りに作ったが、まだ味見をしていない。
少しそわそする。
だけど、そんなのすぐに吹き飛んだ。
きゅっと上がっている口角がより上がり、マフィンを見る目はやわらかさを増した。
美味しい顔をした。
「んまっ」
この顔に嘘はない。
「良かった。
じゃ、抹茶も焼くからこっちも食べてっ」
「ん、楽しみ」
抹茶味もオーブンにセットすると、味見と称してその場で立ったまま2人で食べた。
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