600 / 1502

第600話

4年前の事を覚えているのか、長岡は迷う事なく近所の神社へとやってきた。 コンビニへ散歩の筈だったんじゃ…なんて不粋だ。 2人きりになれるのだから。 田舎の神社は人気がない。 祭事の時位しか賑わう事もなく静かだ。 それに、この時間に神社に来るなんて余程の物好きだけだろう。 外灯下のベンチに近付く背中がやっと止まった。 「遥登」 「こんばんは」 「ん、こんばんは。 ジャージにスウェットってな。 薄着過ぎんだろ」 あ、高校のジャージのままだった… ダサい…… その時はじめて自分がそのままの格好で出てきた事に気が付いた。 それに名前の刺繍されたジャージは膝に穴が開くいている。 だけど、2人にとって見慣れたもので、思い出の残るものだ。 「ほら、着とけ」 長岡は着ていたコートを三条に手渡した。 ふわふわと長岡のにおいがする。 ほぅ…と惚けてしまいそうな意識を慌てて元に戻した。 「駄目です。 正宗さんが風邪ひきます」 「ヒートテック着てるから大丈夫だ。 でも、そうだな。 なら、そのパーカー貸してくれよ」 「これ、ですか?」 引ったくってきたパーカーを脱ぎ渡すといつもの部屋着の上に羽織った。 三条が着ても丈の足りるサイズなので寸が足りないということはないが、そんなにあたたかいものもない。 だけど、嬉しそうに身に纏う長岡に三条の心も穏やかになっていく。 会えなかった2週間の感情の波はスーっと消え、いつもの笑顔が2人の間に咲き乱れる。 「遥登のにおいすんな。 すげぇ良い」 「コート、あったかいです。 ありがとうございます」 「そりゃなによりだ。 俺もパーカーあったけぇよ」 長岡に会えた事が嬉しくて頬がゆるゆるになっている。 コートも良いにおいがして抱き締められているみたい。 恋しかった人の温かさがなにより嬉しい。

ともだちにシェアしよう!