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第601話

ヘへっとだらしなく笑う三条に、長岡は手に持っていた紙袋を差し出した。 「これ、バレンタインのお返しです」 「あ、俺のは部屋…。 持ってくれば良かったです…」 「次、会えた時な。 楽しみが出来た」 優しい言葉選びに1つ頷く。 楽しみが出来た。 なんて嬉しい言葉だ。 「ありがとうございます」 「どういたしまして。 こちらこそ、チョコありがとな」 紙袋の中に丁寧に納められたそれは、夜の空気に冷やされひんやりと手に収まった。 「あ!」 「今年も同じのだけど、貰ってください」 「ありがとうございま…」 1枚のメッセージカードに目が釘付けになった。 青いリボンのイラストが印刷された、店舗でおまけに貰った様なチープな物が1番奥に下敷きになるように隠れていた。 手に取ると、 “愛してる” 見慣れた文字で一言そう書かれている。 「正宗さん、」 「おい、どうした。 なに泣いてんだ」 そう言われ、自分が泣いている事に気が付いた。 ポタ…と服に落ちては染みていく。 長岡のコートを濡らさない様に何度も目元を拭う。 「嬉しくて」 この世で1番綺麗な人は、 この世で1番優しく笑った。 こうして何度も見返す事の出来る言葉はなんて良いものなんだろう。 何度も、何度も、今を思い出せる。 愛されるとあたたかなものが身を包んでくれる。 あるアイドルが言っていた。 明けない夜はない。 つまり、明ける夜が必ずある、と。 なら、この世界には必ず愛がある。 どんなカタチでも。 「遥登が嬉しいと俺も嬉しいよ」 「これがあればなんでも頑張れます」 「頑張り過ぎんな。 身体壊したら意味ねえぞ」 「今の事だって、実習でもなんでも頑張れます」 「まだ追い付くなって。 もう少し背中を見ててくれ」 ずっと見てきた背中はとても大きくて、まだまだ全然手なんて届かない。 一生手なんて届かないかも知れない。 それでも、この言葉があればどんな事だって頑張れる。 なんだって出来そうな気がする。 力強いお守りだ。

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