604 / 1502
第604話
「美味しいです」
「鼻ぐずぐずさせて味分かるか?」
「分かりますよ。
これは檸檬味です」
「色で分かったのか」
「味ですよ」
飴を舐めきるまでの短い休憩。
田舎といっても寂れた町じゃない。
あまり長居をして人の目に入るのは避けたい。
近所に住んでいる三条に変な噂が沸くとまずいからな。
噂話は田舎のコミュニケーションツールだ。
褒められたものではないが、娯楽が少ない分そうなってしまうのだろう。
人の噂を娯楽にする方が悪趣味か。
だけど、飴を舐めながらそんな事を気にせずゆっくりと2人きりの時間を味わう位は良いだろう。
甘くてキラキラする砂糖菓子はロの中で少しずつ溶けていった。
儚くて甘くて、美味い。
「桜が咲いたら今年も花見に行こうな」
「はいっ」
春には春の美しさを堪能しなければ勿体ない。
それはこんな時でも、いや、こんな時だから大切だ。
心まで貧しくなってはいけない。
三条を見ているとそう思う。
豊かに笑い、周りも笑顔にする偉大な恋人。
そう生きてみたいと思ったんだ。
この子と並んで生きたいと。
四季折々の美しさをもっと堪能しなければ勿体ないと思える様にもなった。
世界はこんなにも鮮やかだ。
「今年は早く咲くみたいだな」
「はい。
3月中に咲くかもって夕方のニュースで言ってました。
楽しみですね」
「あぁ。
楽しみだ」
早く咲いてくれ。
そうしたら、デートに誘う口実が出来るだろ。
この北国の人はみんな待ってんだ。
ともだちにシェアしよう!

