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第605話
自宅までの帰り道、最後の曲がり角を曲がる前で長岡は立ち止まった。
自宅前では家族に見られる危険もあるからかと1人納得し、それならとコートを返そうとすると暫くパーカーと交換していてくれと断られた。
パーカーを貸す事自体は構わないのだが、コートを着ないと帰りの車内の冷えが気になってしまう。
例年よりあたたかいと言っても夜は冷える。
「帰ったらあったかくして寝るから大丈夫だ」
「パーカーは着たままで構いませんから、コートも着てください」
「交換つったろ。
コートに遥登のにおい付けといてくれよ」
におい。
長岡が言うと、なんだかいやらしい気分になってしまう。
ちらりと隣を盗み見ると口角を上げ綺麗に、そしてとても優しい目で微笑んでいる。
その目は頭上に広がる星空のようだ。
深く落ち着いていて静かなはずないのに、あたたかく煌めき見守っていてくれる。
三条はずっとこの目に守られてきたんだと再認識した。
「な」
「絞いです」
「知らなかったか?」
コートを抱き締めたまま突っ立っている三条の頭に手をのせるとポンポンと優しくて撫でた。
こういう事をさらりと出来るから格好良いんだ。
その手に触れるとこくんと1つ頷いた。
「知らなかったのかよ。
もっと俺の事知って貰わねぇとな」
冷たくて大きな手は頭から耳へ、耳から頬をゆっくりを撫でてくれる。
なんて心地いい手。
飼い主に撫でられ喉を鳴らす猫の様な表情に長岡は益々楽しそうな顔をした。
つい、ここが外だと忘れそうになってしまう。
「柏そっくり」
「それは光栄です」
恋人と笑い合える事だってこんなに嬉しい。
改めてベタ惚れだと思い知る。
それがこんな事が原因なのは癪だが。
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