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第607話

「連絡楽しみに待ってる。 毎日しても良いからな。 沢山働くからご褒美くれよ」 「はいっ」 三条が気負わない言葉選びにしっかりと頷いた。 「またな」 「はい。 また、です」 ほどける指を思わず追い掛けると、もう1度揺らしてくれた。 長岡の気持ちが、身体の奥のやわらかいところはあたためてくれる。 やっぱり長岡が大好きだ。 会えなくたってそれは変わらない。 紙袋をしっかりと握り締め、ゆっくりと背中を向ける。 寂しくないと言えば嘘だ。 だけど、ここで我が儘を言うのは格好悪い。 困らせたい訳じゃない。 迷惑をかけたい訳じゃない。 会いに来てくれた事がそれ以上に嬉しい。 振り返ると長岡はそこから1歩も動かず自分を見ていた。 ひらひらと手を振って見送ってくれる恋人。 どうせバレてる筈だ。 大好きな人に三条も手を振り返す。 名残惜しい気持ちを精一杯隠して。 だから短い距離で何度も何度も振り返す。 大きな恋人を何度も振り返りながら自宅へと帰った。 ドアを閉める瞬間まできっと長岡は動かなかったと思う。 だって、いつものデートもそうだから。

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